「定四郎」
新津駅前に「定四郎」というお店がある。
席数は少なめで、カウンター席のむこうで調理して、季節のお料理を出してくれる。
自分のための調理が見られるなんてなかなかないので、お店を気に入っている。
私はおちゃめだと思っているのだがちょっと言葉数は少ない店主と、可愛らしい奥様が出迎えてくれるので、ウチらもめいいっぱいお洒落して出かける特別なお店だ。
利用するのはたいてい記念日で、梅雨前の結婚記念日、年末の私の誕生日、早春のだんなの誕生日であることが多いのだが、何回か利用すると、それ以外の季節の料理が気になってくる。
だけどまだ秋に訪れたことはない。
ここ何年か、もうひとつ通い始めた土用のうなぎ。
だんなはうなぎ好き。
結納の食事会で、私の地元の料理屋で食べたうなぎの蒲焼がふたり共通の思い出だ。
食べきれない料理が並んでいたのに、今日の主役とばかりに出てきたうなぎは、美味しかったのだが大きかった。みなが折詰にしながらも、たぶん会場で一番食べていたのはだんなかな。
それから結婚しても夏の土用にはうなぎを食べるようにしている。
中国産より国産、しかしうなぎも希少価値になって値段が上がり、ひとりで一匹食べるのが贅沢になってきた。そして大人になって、蒲焼きより白焼きを好むようになった。
もともと魚料理が得意な定四郎さんが、テイクアウトうな重も提供していたけれど、店内で熱々のうな重を出し始めると、すぐに気になり訪ねてみる。
市販されるうなぎの蒲焼より値は張るが、なにより定四郎さんの魅せる料理と熱々のうな重が私を引きつけた。だんなもふたつ返事で喜ぶ。
今日はカウンター席、目の前で串に刺したうなぎをタレをつけて焼く。
「今年は過去一番美味しいですよ」
ぽつりと店主が言う。タレはもちろん継ぎ足しの熟成されたものだ。
うなぎの焼き上がりを横目で気にしながら、焼き上がるまでにちょっとした料理が運ばれてくるので、目の前を過ぎる料理を楽しむ。
出汁を取り目の前に置く。澄んだ出汁の香りがただよう。
トマトで出しをとった茶碗蒸しは、夏越の祓えの茅の輪を模した竹細工に飾られて出てきた。器が好み、そしてトマトのあんに山椒の実の塩漬けを散らした茶碗蒸しの味もまた格別。
うなぎにタレをつけて焼く。
季節先取りの菊の花びらが散らされた肝吸い。もしかして茗荷も入っているかな?ここに来るまで肝吸いなんて夢のまた夢だったな。
そうやって目と舌を楽しませてやってくるのは、席についたときから炙られていた主役のうな重。
自家製の漬物と、茄子の味噌汁を添えて、今年も夏が来る。
食べているうちに満足してしまいだんなに手伝ってもらったけども、脂のノリもよくタレもしみたうなぎは今年もさらに格別に美味かったのです。
食後の葛切りは、葛粉を取り出すところから見ていました。
溶いて湯煎で煮て、氷で冷やして、型から出して切る。
氷入りの器に寄せて紅葉を飾る。
ガラスの器に黒蜜を入れる。
なんとも良い時間でした。
来年もまた夫婦揃って食べられますように。
読み物風に書いてみたww